連載・コラム

大学のミュージアムに行ってみました!

『季刊 まちりょく』特集記事アーカイブ

『季刊 まちりょく』vol.27掲載記事(2017年6月15日発行)
※掲載情報は発行当時のものです。現在の各施設の状況については、各施設のウェブサイト等でご確認ください。

仙台市内には美術館や博物館、資料館、文学館、天文台、動物園・・・様々な「ミュージアム」がありますが、実はその中に「大学」が運営するミュージアムもいくつか存在するのをご存知でしょうか。今回、仙台在住16年のライター小島典子さんが、その中から気になる三館を選び、足を運んでみました。そこで見たものは?
それぞれが個性的で奥深い「大学ミュージアム」のレポートをお届けします。

文・写真:小島典子

兵庫県姫路市出身 仙台在住16年
筑波大学第二学群日本語・日本文化学類卒業
ライター・こけしを愛好し楽しむ会こけしぼっこ代表
仙台市内の幼稚園などで、こけしが語るむかし話「こけし人形劇」を上演している

東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館

 最初の目的地は、東北福祉大学国見キャンパスのど真ん中。学生たちが往来する学内をのんびり歩いて行くと、香ばしいパンの香り漂うエリアに「芹沢銈介(せりざわけいすけ)美術工芸館」の看板を見つけました。訪れたのはちょうどお昼時。パンを求める学生さんの長い列を眺めながら、受付のある5階へと向かいます。

パンの香りが道しるべ
福田町の人気店「パン屋げんき」2号店に並ぶ学生さんたち

 エレベーターに乗り込む前に、エレベーター扉にも注目を。美しく連なる文様は、1階、5階、6階と、階ごとに異なる芹沢銈介デザイン! そのこだわりに感心しつつ、展示室のある6階へ。

入口1階は立木文、受付5階は波文、展示室6階はモザイク文
強烈な個性が集結しているにも関わらず、何故か落ち着く応接間

 入り口には芹沢銈介が暮らした東京・蒲田の邸宅の応接間が再現されています。宮城のカマ神さま、チベットの蓮文絨毯、イギリスのラダーバックチェアなど、古今東西の工芸品が、日本の応接間で見事に調和している不思議。人々の暮らしに根ざしたものたちが発するパワーと美しさは作品づくりへの大きなインスピレーションとなり、作品のモチーフとしても度々登場しています。また、来訪する客の好みに合わせて応接間の模様替えをしたり、客がそれに気がつかないと不機嫌になったりと、人間国宝芹沢銈介の人間らしいエピソードに思わずにんまり。

こけし愛好者のバイブル「こけし・人・風土」の装丁デザイン

 いよいよ展示室に入ると、美しくライトアップされた型紙が。ここには作品に使用された、約一万点もの型紙が収蔵されているのだそう。光の中で黒く浮き上がる型紙は、それ自体がすでに完成された作品のよう。続いて屏風、着物、暖簾、扇子など、様々な形に仕立てられた作品が並びます。遊び心を伴った粋なデザインに見惚れつつ、芹沢銈介の美の世界をじっくりと堪能。

描かれている島々はもしや松島?
踊り場「染色の道具」たちが放つ美しさにも注目

 ここで学芸員の奈良綾さんから、ちょっとマニアックな鑑賞のコツを教えていただきました。展示パネルにある制作年の下二桁に5を足すと、芹沢銈介の当時の年齢がわかるとのこと。1956年、型絵染の人間国宝に認定された年齢は61歳。その後十数年静かな生活を求め、神奈川の海岸近くに暮らした期間があり、この時期漁の道具がデザインされた作品がある・・・などなど!パンフレットの年譜と照らし合わせつつ鑑賞すれば、作品の中に違う何かが見えてくるかもしれません。展示室を出て、今度は階段で5階へと戻ります。この階段では踊り場と天井に見どころが。

天井 鮮やかなステンドグラスは芹沢銈介の文様デザインを組み合わせ製作

 5階には、常設展「宮城県の陶磁器 堤焼・切込焼」「芹沢銈介の技をみる 型絵染」のほか、ミュージアムショップ、カフェ「可否(コーヒー)館」が。常設展を除いてはフリースペースなので、ふらりとお茶に立ち寄ることもできますよ。

常設展内「手あぶり」の猫のボリューム感!
常設展示室のシックな照明に釘付けに
包装紙のデザインとして採用された型紙は、常設展で展示中

 ミュージアムショップでは、芹沢銈介デザインの手ぬぐいや卓上カレンダーのほか、ここでしか手に入らないオリジナルグッズも。また、染色の道具である小さな刷毛も販売されており、その姿かたちの愛らしさは、道具として使う予定がなくてもつい欲しくなってしまいそう。

おみやげ
芹沢銈介美術工芸館オリジナルグッズ、卓上カレンダー、手ぬぐい、メモ帳、ポストカード、刷毛 など

 見どころが盛り沢山の館内で、最後に訪れたのがカフェ「可否(コーヒー)館」。窓際のカウンター席に座りカーテンを開けてみると、国見の丘から広がる新鮮な景色が目の前に。左に太平洋、右に太白山、晴れた日にはベニーランドの観覧車! 仙台城址の伊達政宗公騎馬像も見つけましたよ。パノラマを眺めつつ美味しい珈琲をいただきながら、美しいものたちとの出会いを振りかえる贅沢なひととき。染色家・芹沢銈介への敬意と愛情がたっぷりと感じられる、美しきミュージアムでした。

盛岡の光原社・喫茶「可否館」の看板デザイン案から製作された看板
かわいい紅茶のお供には、宮町・スタジオファーレンのクッキーを
芹沢銈介美術工芸館スタッフの皆さん。前列中央は副館長の芹沢恵子さん。

開催中の催し

企画展 芹沢銈介の模様と色彩―色ソメツ心ソメツ―
2017/7/22(土)まで

学芸員によるギャラリートーク
2017/6/17(土)、7/22(土)11:00~(自由参加 当日の入館券が必要)

ワークショップ「和紙に模様を染めてみよう」
会期中6月の毎週月・土曜日 受付時間:11:00~15:00 体験時間:30分
材料費:300円 場所:ミュージアムショップ内

ワークショップ「うちわを作ろう」
2017/7/1、8、22(各土曜日)
受付時間:11:00~15:00 体験時間:30~60分 材料費:500円
場所:ミュージアムショップ内


東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館

〒981-8522 仙台市青葉区国見1-8-1 TEL 022-717-3318
型絵染の人間国宝・芹沢銈介の作品と、生前に収集した世界各国の工芸品を紹介。長男・芹沢長介氏(東北大学名誉教授・初代館長)が、東北福祉大学で教鞭をとった縁より、同氏から、コレクションの寄贈を受け、1989年6月23日開館。13,000点の収蔵品を、テーマを設けて年3回程度展示替えを行い、広く公開している。


開館時間:10:00~16:30
入館料:一般300円、大学・専門学校生200円
休館日:日曜、祝日(ただしオープンキャンパス開催日は開館)
アクセス
JR/仙山線「東北福祉大前駅」(JR仙台駅から約13分[各駅停車])下車、徒歩10分
バス/仙台駅西口バスプール9番より「北山-子平町循環」または「子平町-北山循環」乗車で「東北福祉大学前」下車(どちらも約25分)

注記)2022年11月現在、メンテナンスのため休館中

→トップに戻る

東北大学植物園

 次に訪れたのは、東北大学青葉山キャンパスと川内キャンパスの間に位置する東北大学植物園。来園済みの友人からのアドバイスに従って、スニーカーにリュックのハイキングスタイルで出かけることに。それでは、いってきます!

東北大学植物園≒天然記念物青葉山

 植物園入口の看板に「天然記念物 青葉山」の文字を発見。そう、ここは仙台城址の御裏林(おうらばやし)青葉山。伊達政宗が仙台城を築いて以来、仙台藩、旧陸軍、駐留軍による厳しい監視下に置かれ、数百年にわたって一般人の立ち入りが制限されていたお山。そのため貴重な動植物が数多く存在し、植物園としては全国初の国の天然記念物に指定されました。さらには園内に史跡がいくつも存在するという、特別な「お山の自然植物園」なのです。

 本館で受付を済ませ外に出ると、芝生の前庭広場でお弁当を広げる人々が。その長閑な様子に心ゆるむも、早速上り階段が待っていました。階段脇には「動物へのあいさつ」と表示された大きな鐘。ここにはオオタカなどの猛禽が生息できるほど、多くの動物たちが暮らしているのです。「チーン!」と勢いよく鐘を鳴らし、森の生き物たちに「お邪魔します」と挨拶を。

本館前の前庭広場は長閑なプロローグ
リス、イタチ、ハクビシン、そしてクマたちへしっかりと挨拶
モミ、スギ、アカマツ、コナラ・・・多彩な樹木が茂る森

 すこし歩くと、蒙古の碑・正安の碑と記された大きな板碑に遭遇しました。その昔、植物園正門からこの辺りを経て、愛子方面へと通じる街道が通っており、これらはその道しるべ石だったのではとのこと。街道まで通っていたとはどこまで個性的なお山なのだろうと驚愕しつつ、ここが植物園であることをつい忘れそうになりながら奥へと進みます。美しく整えられた山道を30分ほど歩いたところで、園内一周コースの中間地点「青葉山ゲート」に到着。ゲートの外にはコンビニやレストランがあるので、ここでしばしの休憩を。

るーぷる仙台停留所「青葉山植物園西」から徒歩3分の青葉山ゲート

 再入場後の後半は、下り坂が続きます。所々に設置された「動物へのあいさつ」を打ち鳴らしつつどんどん下り、ロックガーデンの川のせせらぎが聞こえてきたらあと少し。1時間弱の道のりには、ネームプレートをつけた植物たちに、史跡に、植物園クイズにと、立ち止まるポイントも満載で、充実の園内一周でした。

植物園に多い樹木ベスト10
動物へのあいさつは2パターン こちらは順次ベルに切り替わるそう

 最後にもう一度本館に立ち寄り、展示ホールを見学。ここ青葉山の動植物に関する展示のほか、冬虫夏草コレクション、花粉画集など、レアな展示にも出会えます。青葉山の奥深さにたっぷり触れた満足感と疲労感とを心身に感じつつ、昔の面影を残したレトロな川内出口から、植物園を後にしました。

冬虫夏草コレクション
昔の名称「東北大学理学部青葉山植物園」が残る川内出口
おみやげ
「青葉山植物園ガイドブック 植物園に行こう」東北大学植物園 編 定価952円+税
50周年を記念して2009年に発行されたガイドブック。青葉山の歴史、森の特徴、園内の季節ごとの見どころやおすすめ散策コースを、植物の写真満載で解説。

東北大学植物園

〒980-0862 仙台市青葉区川内12-2 TEL 022-795-6760
1958年、研究・教育を目的に、理学部附属植物園として設立。学内共同研究施設であると同時に、「自然植物園」のコンセプトのもと、敷地2/3を占める国指定天然記念物「青葉山」の保全・公開や、国内で収集された野生植物などの植栽展示を行っている。また園内には国指定史跡「仙台城址」の一部も含まれるなど、遺跡も点在している。


公開期間:春分の日~11月30日
開園時間:9:00~17:00(入園は16:00まで)
入園料:大人230円、小人(小・中学生)110円(団体割引、年間パスポート有)
休園日:月曜日(ただし祝日の場合は祝日明けの平日)
交通アクセス
地下鉄/仙台市地下鉄東西線「T04国際センター駅」下車、西1出入口より、または「T03川内駅」下車、南2出入口より、どちらも徒歩12分。
観光循環バス『るーぷる仙台』/「①仙台駅前」16番のりばから乗車、「⑤博物館・国際センター前」下車、徒歩12分
無料駐車場28台分

→トップに戻る

東北学院大学博物館

 愛宕上杉通りに面し、存在感を放つ白い建物は、2009年秋に開館した東北学院大学博物館。裏手には土樋キャンパスが隣接しています。ここでは墨書人面土器を始めとする館蔵資料の展示のほか、文学部の学生たちの学びと実践の場でもあるとのこと。この日はちょうど、博物館を会場とした一般市民向けワークショップ「向山から読み解く“仙台”」の準備に取り組む学生さんたちの姿が見られました。

地下鉄五橋駅より徒歩5分
加藤先生
キラキラの瞳で意見を出し合う文学部 加藤幸治先生と歴史学科の学生たち

 板碑、縄文土器、絵葉書、古文書。館内には多種多様な展示物が所狭しと並んでいます。展示パネルの制作から展示物の固定、ライティングの調整に至るまで、全てが学生たちの手によるもの。真剣に展示作業に取り組む中、テグスの達人、パネル張りの達人など、毎年各分野の達人が誕生するのだそう。

学生たちの展示実習を支える、パネルサイズ対応の印刷機が館内に
どこから見ようかと迷うのも楽しい展示スペース

 展示作業において学生たちが大切にしているのは、常に来館者の目線で考えること。その成果を展示のあちこちに発見! ゆるキャラ「どきのすけ」の登場や、手作りの消しゴムはんこを使って縄文土器をデザインする「土器づくり体験コーナー」など、学生ならではのフレッシュな目の付け所に心がくすぐられます。

縄文土器の文様から浮かび上がって見えてきたという「どきのすけ」
体験コーナーの発案者、歴史学科の横山さんの夢は学芸員

 また、現在進行形で発掘中の喜多方・灰塚山古墳発掘調査に関しては、第6次の調査速報を展示中。今後の発掘の速報を定期的に追う楽しみも。またここでは発掘調査合宿・調理担当の学生たちが、少ない予算内で考えた献立についての報告など、青春の風を感じる展示もありました。

 館蔵資料の展示では、「イケメン土器」の俗称を持つ「墨書人面土器」が展示中。高校の日本史の参考書に掲載されたり、歴史の本の表紙を飾ったりと、知る人ぞ知る資料です。病の回復を願う人々が、穢れを祓う「まじないの道具」として川に流したのではと推測されることから、描かれているこの顔は、疫病神のような役割を果たしてのかも。

一度見たら忘れられないインパクト
初めて川から発掘した人の驚きたるや・・・

 博物館では、学芸研究員の学生による展示の解説も行われています(要問い合わせ)。充実の展示内容を楽しみつつ、展示に関わった学生たちの工夫や取り組みまでも直接感じられるのは、大学のミュージアムならでは。展示内容が変わる頃にまた訪ねたい! 新鮮な魅力満載の東北学院大学博物館でした。

おみやげ
KOREMITE 東北学院大学博物館 収蔵資料図録 VOL.2学生の視点で作る、東北学院大学博物館収蔵品の解説書。「読んで楽しい収蔵品図録」を目指し、写真撮影から解説、編集まで学生が担当。毎年1冊づつ作成し、本書は2冊目となる。(VOL.1は在庫切れ)。館内で配布。

東北学院大学博物館

〒980-8511 仙台市青葉区土樋1-3-1 TEL 022-264-6920
大学が研究のため所有する歴史学・考古学・民俗学などの文献や考古・民俗資料を一般に公開することを目的に、2009年秋に開館。研究成果を伝えるとともに、博物館学芸員資格課程の実習の場としても機能している。


開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
入館料:一般200円
休館日:日曜、祝日、休日、大学の定める休業日
アクセス
地下鉄/仙台市営地下鉄南北線「五橋駅」下車、徒歩5分

→トップに戻る

『季刊 まちりょく』は、(公財)仙台市市民文化事業団が2010~2021年に発行していた情報誌です。市民の方が自主的に企画・実施する文化イベント情報や、仙台の文化芸術に関する特集記事などを掲載してきました。『季刊 まちりょく』のバックナンバーは、財団ウェブサイトの下記URLからご覧いただけます。
https://ssbj.jp/publication/machiryoku/