芝居の題材にしたぐらい、まち歩きが好き! という金野さんをお迎えした今回の「まちを語る」。前日までの寒波が去り、取材日(1月中旬)は幸いにして冬晴れに。評定河原を起点としてご近所を一周する散策が始まった。
すぐに金野さんが「今日みたいな雪景色でないと見えないものがあるんですよ」と向かい側の堤防を指し、「あの形、私『雪坊主』って呼んでるんです」。コンクリートの壁に積もった雪が人の形になっていて、なるほど「雪坊主」の名がぴったり。そんなふうに金野さんは自然界のいろんなものに名前を付けるのが好きで、例えば、お地蔵さんがうつ伏せになったような形の河原の石には「嘆き石」、橋が川面に映って朝日にキラキラ輝く様子は「水羽衣」。鳥が好きな金野さんにはスズメとカラスの友達がいて、それぞれ「チャッコ」、「ゴンザレス」と呼んで可愛がっているという。そんなふうだから、「日常が退屈しませんよ。芝居以上に愉快ですね」と金野さんは笑う。
評定河原橋と霊屋(おたまや)橋を渡り、米ヶ袋の住宅地を抜けて広瀬川べりの道を歩く。この対岸に建っていた鹿落(ししおち)旅館は東日本大震災で被災して取り壊されたが、その風情ある建物が健在だったころ、金野さんは一度だけ泊まりに行ったことがある。「大きな舞台の仕事が終わった後にゆっくりしたいなと思って。女ひとりって言ったら旅館の人が『え?』って、それで宿帳に書いた住所が近所だからそれも驚かれました(笑)。でも“旅の雰囲気”を味わいたかったのよね」。自分の生活圏を歩き回ってちょっと意外な角度から見ることが大好きという、そんな好奇心に満ちあふれた金野さんと一緒に歩いていると、いつもの風景が新鮮に見えてくるから不思議だ。
米ヶ袋~愛宕山〜霊屋下
米ヶ袋から土樋へ出て愛宕大橋を渡り、石段を上って愛宕神社へ。眼下には仙台の市街地。遠くに雪化粧した泉ヶ岳、大和町の七ツ森も見える。「仙台で生まれ育った私には、泉ヶ岳は心の山。泉ヶ岳を見るとすごくほっとするんです」と金野さん。「こうやって風景を見ていると、人生というか、自分のこれまでを振り返って、良しとすることができるんですよ」。
愛宕神社から向山に回り、仙台三十三観音の最後の札所である鹿落観音堂に立ち寄る。ここも眺望が良く、対岸にはさっき歩いた米ヶ袋のあたり、その向こうにはビル街が広がっている。「政宗様の時代はどんな感じだったんでしょうね」と想像しながら、最終目的地である霊屋下界隈へ。金野さんは大河ドラマ「独眼竜政宗」の放映前に政宗公を題材にした芝居を上演しており、瑞鳳殿でその一場面を演じたこともある。現在は自宅から仙台城跡の騎馬像を拝しながら生活しているといい、金野さんと政宗公の縁を感じながら、瑞鳳殿、瑞鳳寺、穴蔵神社を巡る。気がつくと、歩きはじめてからあっという間に3時間が経っていた。
それぞれの場所は訪れたことがあっても、改めてぐるりと歩いてみると、地形は変化に富み、そこかしこに歴史が息づいていて、「なんだ、仙台っておもしろいじゃないか!」と再認識した。「私の夢は、仙台市内のあらゆる道を自分の足で歩くこと」と語る金野さんが導いてくれた充実のひとときだった。
掲載:2017年3月15日
- 金野 むつ江 こんの・むつえ
- 仙台市生まれ。1984年、芝居小屋「六面座」を旗揚げ。劇団での演劇活動のほか、一人芝居の上演、テレビ・ラジオへの出演、講演、エッセイ等の執筆、市民参加型ミュージカルの脚本・演出を手がけるなど、幅広く活躍している。1996年から2005年まで自ら企画し六面座で主催した「わたしの名ゼリフコンテスト」には全国から応募があり、大きな反響を呼んだ。1988年、宮城県芸術選奨新人賞、1998年、宮城県芸術選奨をそれぞれ受賞。著書に『金野むつ江戯曲集 シンク・シンク』『「わたしの名ゼリフ・コンテスト」傑作選 天然語録』などがある。