レビュー・レコメンド

シュガークラフトの専門書『SUGAR FLOWERS』

――進むべき道を広げてくれた本

渡邉 靖水 (「とびばいさ甘座」工場長/宮城県洋菓子協会会長)

Q. この作品について教えてください

 1986年にロンドンで発行された、NICHOLAS LODGE著のシュガークラフトの専門書です。40年前にいただいた本で、小学生だった私はこの世界観に魅了されました。

 当時、お菓子やケーキといえば、クリーム、フルーツ、チョコレートを施した素材の色を生かしたものに見慣れていましたが、この本に載っているのはピンクや赤、水色などカラフルな艶のあるケーキたち。お砂糖で作られたリアルな花の装飾など、その美しさとアート性に衝撃を受けました。

Q. この作品と出会ったときのこと、出会ってからの変化などを教えてください

 1986年、12歳の私は、大好きなアニメやまんがのイラストを描くことに夢中でした。小学校では「まんが・アニメクラブ」を立ち上げて部長に。毎日のように模写し、絵のこととなると夢中で、寝ないで作品を仕上げることも度々。「将来はアニメーターかイラストレーターなど、絵を描くことをずっとしていたい!」と夢みていました。もちろん、得意科目は図工と美術でした。

 そんなある日、母のお友達からのお招きで、東京で行われたシュガークラフトの展覧会へ行きました。初めて見る美しく華やかなシュガークラフトの世界にとても感動したことを今でも覚えています。帰り際に、母の友人から「遠くまで来てくれてありがとう」とプレゼントされたのがこの本です。絵を描くことが好きな私は、造形も大好き。本の中身は全編英語でしたが、書いてある内容がわからなくても、この世界に魅了されました。

 お砂糖で花を作るという技術は、当時、菓子店を営む父やそこで働く人たちに聞いても詳しく知りませんでした。このとき「その道のプロでも知らないことはまだまだあるんだ!」と、お菓子業界の深さや広さを感じ、父のいる業界に初めて興味がわいたと思います。「父が勉強をしていない分野を歩むことが私の道だ」と決心することにもつながりました。その後、進路を考えるときにあの感動を思い出し、この本と出会った7年後にはシュガークラフトを学ぶために東京にいました。まさに私の人生を決めた本といっても過言ではありません。

 菓子業界、シュガークラフトへ興味のある方にはぜひおすすめしたい一冊ですし、40年前とは思えないほどの造形美、アイディア、デザインに感動しますので、美しいものに興味がある方にもぜひ手に取ってみてほしいです。菓子作りの枠を超えた美しい世界観は、まるでアートを鑑賞するかのようです。

 知らなかった世界に感動する気持ちを大切にすると、興味が芽生え、知識が広がっていきます。それは、今歩んでいる道が豊かになりワクワクして楽しめて、いつかお客様に喜ばれる仕事にもつながります。当時の私のように、シュガークラフトを全く知らない方へも感動が届くとうれしいです。

『The Art of Sugarcraft : Sugar Flowers』(Nicholas Lodge 著、1986年)
縦長のハードカバーで、日本ではあまり見られないサイズ。

掲載:2026年6月30日

【レビュー・レコメンドとは】
仙台に暮らし、活動するさまざまな方に、「人生の一番/最近の一番」を教えていただく企画です。

渡邉 靖水 わたなべ・きよみ
1974年生まれ、仙台市出身。実家である「とびばいさ甘座(あまんざ)」にて工場長を務める。また、各方面で工芸菓子の指導に力を注いでいる。宮城県洋菓子協会の会長を務め、洋菓子業界全体の活性化へ尽力。ほか、地域コミュニティ『定禅寺リビングストリートプロジェクト』を立ち上げ、リーダーとして地域活性化にも努めている。「定禅寺通で生まれ、生活、仕事、子育て、介護を全てケヤキ並木に見守られています」。