| 事業名:「つくる・みる・はなす・いる ともに表現する場所」を地域にひらく 団体名:特定⾮営利活動法⼈エイブル・アート・ジャパン 活動期間:2025年6月21日から2026年3月15日まで |
■出かけていくことで出会える人たち
仙台駅から徒歩数分のビルの中にある、就労移行支援事業所スイッチ・センダイにて、人形劇団ポンコレラの工藤夏海さんをファシリテーターにむかえた出張人形劇ワークショップが開催されました。エイブル・アート・ジャパンは助成採択事業の中で、文化芸術の参加の機会が少ない障害のある人・その支援者を対象にした人形劇のアウトリーチ事業を2024年から実施しています。エイブル・アート・ジャパンが就労移行支援事業所スイッチ・センダイでアウトリーチを行うのは、今回が初めてです。
認定NPO法人Switchが運営する、「就労移行支援事業所スイッチ・センダイ(以下、「スイッチ・センダイ」)」には、就職や復職を目指す精神疾患や発達障害、難病のある方などが通っています。いつもは個別の活動が多いため、利用者のみなさんが一緒に活動を行う時間は多くはありません。このような背景の中で、今回は「自分ではない」人形を通して、気持ちを表現する、即興劇「まちがい劇場」を行うこととなりました。
最初に工藤さんから今日の流れの説明があったあと、人形作りを行いました。いろんな色の材質の違う紙、毛糸、ペン、のりなどが机に用意されています。お話の間は緊張されている様子も伺えましたが、実際手を動かす場面になると集中してどんどん人形作りを進めていきます。その後は一人ひとり、作った人形の紹介タイム。雪だるまやギャル、富士五湖、自分の頭の中のイメージなど、一つひとつの人形の物語が生まれていきます。お話の中に、作った本人の好きなものや考えていることが垣間見られ、自己紹介はしていないにも関わらず、どんな人なのか、感じられる時間でした。

このあとは、いよいよ即興劇「まちがい劇場」に挑戦です。<まちがい劇場>と書かれた看板を外すと即興劇が始まります。そして、<おしまい>の看板が出たら、終わります。ルールはそれだけで、事前に打ち合わせは行わず、出演者同士で物語を進めていきます。工藤さんからは、「正解がない劇場」「オチもいらない」「相手に合わせてもいいし、合わせなくてもいい」というお話があり、少しドキドキしながらも、先程つくった人形とともに2〜3人組のチームごとに発表をしていきました。発表はチームを変えて2回行いました。チームを変えることで、関係性も変化し、1回目と同じ設定の人形もあれば、2回目は別のことにチャレンジする場面もあり、いろいろな表現が引き出されていました。私自身もまちがい劇場を体験させてもらったのですが、自分でも思っても見なかった言葉を話していて、人形を通して、少し違う自分だからできるのびのびとした表現を楽しむことが出来ました。また誰かとやりとりをすることで、自分だけでは生み出すことのできない物語を味わうことができました。
最後に、振り返りとして参加者のみなさんが今日の感想をお話してくれました。「いろんな個性があってよかった」「劇と聞いて台本があるのかと思った。即興で進めたので、頭を使った」「自由は難しいけど楽しかった」「何でもあり、ストレートに表現できるのがよかった」というようなコメントがありました。職員さんからも「メンバーのみなさんの違う一面が見られた」という声がありました。

■境界を超えるコーディネーターの役割
文化芸術には、違いや背景、立場を超えて、ともに楽しんだり、面白さを見つけていくことができる良さがあります。それは、ただ何かをするだけで生まれるものではありません。どんな人が参加するのか、何を目的とするのか、どんな内容が適しているのか、などを調整する役割が必要となります。今回のように、障害福祉という文化芸術とは別の分野と関わる場合、より調整が求められます。
一般財団法人地域創造の令和3年度報告書「地域と文化芸術をつなげるコーディネーター インタビューによる事例調査 報告書『変化する地域と越境する文化の役割』」(https://www.jafra.or.jp/library/report/2021/index.html)では、地域と文化・芸術のつなぎ役であるコーディネーターの活動について、具体的に紹介されています。その中の「75の糸口」では、「悩みを共有し、次のアクションをイメージしてつなげていく」、「分野横断できる『通訳者』としての役割が求められる」、「活動としての価値を見いだして活動につなげる」といったポイントが挙げられています。
この活動では、打ち合わせから実施、振り返りまでの、エイブル・アート・ジャパンのスタッフのみなさんがスイッチ・センダイの職員のみなさんと丁寧なやりとりをしている様子を随所に感じました。障害福祉と文化芸術、双方の知見を持つコーディネーターがいることで、現場にとって最適な状況が作り出されていました。そういったコーディネーターの存在やその意義は、まだまだ十分認識されているとは言えません。今回のような活動を通して、コーディネーターの重要性が認識され、将来的には、育成や交流につながっていくことで、現場がより豊かなものになると考えます。
■持続可能な活動にするための体制づくり
2024年3月に策定された、仙台市文化芸術推進基本計画では、目指す姿1に「あらゆる人に参加機会がひらかれ、文化芸術に親しめるまち」と記載があります。「あらゆる人」は、どんな人が想定されるのでしょうか。障害のある人、外国につながる人、生活困窮の状態にある人、列挙してもしきれないぐらいいろんな人がこの社会の中で生活してます。劇場やホール、美術館で待っているだけではなかなか出会うことができないかもしれません。今回私が伺ったような、出張形式のワークショップや生活の場に近いところで継続的に行われるオープンアトリエの活動を通して、文化芸術に親しみを感じ、もっと体験したくなったり、今度は劇場やホール、美術館に行ってみようと思えるようになることが目指す姿につながるのではないでしょうか。
助成事業は、活動を支援するという目的のほかにも、まだ見つけられていない課題やニーズを発見する役割があると考えます。助成事業という形で実施している活動の中で、仙台市文化芸術推進基本計画などの実現にむけて必要な活動については、仙台市として事業化し、継続的に実施できる体制づくりが必要であると考えます。一回だけのイベント的なものではなく、必要なときに必要な人たちがいつでも文化芸術に関われるように、安定的な仕組みにつながっていくことを期待しています。

◎エイブル・アート・ジャパンのみなさんによる当日のレポートはこちらからご覧いただけます。
https://soup.ableart.org/program/2025nen/hiroba2025/report_hiroba_2/
◎2018年度から2023年度までの活動の記録と人形劇ワークショップのつくりかたをまとめた冊子『みんなでつくるよ広場の人形劇!2018→2023 人形劇ワークショップの記録とそのつくりかた』の詳細はこちらからご覧いただけます。
https://soup.ableart.org/program/2023-2/atelier_hiroba_2023/hiroba_book/

