| 事業名:高校生の演劇環境改善サポート事業 団体名:つながれ高校演劇 ステサポ!SENDAI 活動期間:2025年6月21日から2026年3月15日まで |
「入口」が細くなるということ
近年、高校生が主体となって行う演劇活動、いわゆる「高校演劇」を取り巻く環境が変化している。少子化や教員の多忙化といった構造的要因により、演劇部の減少が進んでいるためである。
高校演劇は、生徒が主体となって創り上げる総合的な創作活動である。役者にとどまらず、脚本、演出、照明、音響、舞台美術、制作など、演劇を構成する多様な要素を生徒自身が担う点に特徴がある。作品には、高校生特有の悩みや喜び、社会への違和感が表れるほか、地域固有の言葉や物語、空気までもが反映されることがある。生徒によるオリジナル脚本に取り組むことも多く、地域の物語を可視化し、継承につなげる役割も果たしている。
また、高校演劇は、多くの人にとって表現活動の出発点でもある。舞台に立つ面白さや、限られた条件の中で仲間と一つの作品を創り上げる過程での苦しみと喜びを体験することで、その後の専門的な創作活動や、地域に根差した演劇活動へとつながっていく。
しかし、この「出発点=入口」が細くなると、地域の演劇を支える次世代の担い手が減少することになる。これまで各学校で先輩から後輩へと受け継がれてきた演出の工夫や知恵、機材の扱い方といった技術も途切れかねない。さらに、演劇に関心を持つ人そのものが減少すれば、演じ手だけでなく観客も減少し、影響は広範に及ぶ。
この問題は、単なる部活動の存続にとどまるものではなく、地域における演劇文化をいかに維持・継承していくかという、社会的な課題として捉える必要がある。
つながれ高校演劇 ステサポ!SENDAIの取り組み
こうした状況を踏まえ、高校演劇の担い手を育成し、その環境を支える仕組みとして実施されているのが、「高校生の演劇環境改善サポート事業」である。
2022年度および2023年度に在仙の演劇人団体「仙台演劇研究舎」が主体となって前身となるプロジェクト「てとつてと」を実施した。また2024年度には宮城県高等学校演劇協議会が主催となり、「高校生で創る演劇2024」を実施した。これは、プロの演劇人が演劇部員や顧問を支援する取組であり、これらの成果を基盤として、2025年度は「つながれ高校演劇 つながれ!SENDAI」を立ち上げ、4つの柱のもと、高校生の演劇環境の改善と持続可能な運営体制の構築を目指した。
〈4つの柱〉
・高校生の現状把握のためのリサーチ(アンケートを含む)の実施
・高校卒業後の進路や悩み(生徒・教員双方)に関する相談窓口の開設
・専門性を有するプロから学ぶ研修や、創作活動に対するアドバイス機会の提供
・複数校の生徒が公募により参加し、主体的に創作活動を行う合同公演の実施
新たな組織体制は、実行委員・運営サポート・企画アドバイザーの三つの役割で構成されている。なかでも重視しているのは、現役高校生と近い世代である10代後半から20代前半の若いメンバーによる実行委員会の結成と、その成長である。
実行委員には、2023年度に実施した「高校生で創る演劇」事業に参加し、その後卒業した若い世代のメンバーが参画している。さらに、仙台を拠点とする演劇人である横山真氏、瀧原弘子氏が企画アドバイザーとして加わり、プロの視点から企画・運営を支えている。また、宮城県高等学校演劇協議会の中心メンバーが運営サポートとして関わり、運営ノウハウや会計等の実務を実行委員会へと段階的に引き継いでいる。この実行委員会では、毎年度の卒業生から新たなメンバーを募り、人材が継続的に循環する仕組みの構築を目指している。
こうした取組は、学校外における新たなコミュニティの創出につながり、地域全体で高校生の表現活動を支える基盤を形成するものである。地域における演劇の担い手育成と、持続可能な文化基盤の形成に資する重要な取組である。
創作活動の現場では
2026年3月4日、合同公演の稽古場である聖和学園高等学校サールナートホールに、午後5時、各校から高校生たちが集まってくる。ジャージや制服など、それぞれ異なる装いのまま集まった生徒たちは、やがて2つのチームに分かれ、ステージを交互に使いながら稽古を開始した。

高校を横断して実施される合同公演では、各校の試験や学校行事などのスケジュールの違いにより、参加者が揃わない場面も少なくない。そのため、十分にコミュニケーションが取れない場面もあり、生徒たちが戸惑いや葛藤を抱えることもある。
そうした状況を支えているのが、年齢の近い実行委員の存在である。稽古では代役を務めたり、こまめに声をかけたりすることで、生徒の不安を受け止め、創作への集中を後押ししている。高校生が自由に表現できる環境を守りつつ、進行管理や課題の整理といった制作面は、実行委員やアドバイザー、教員が支える体制が取られている。かつて高校生としてこの事業に参加していた実行委員の一人は、「大人や先生、先輩と上下関係に縛られず、対等に意見を交わせる環境が楽しく、本気になれた」と振り返る。その経験が、卒業後も関わり続ける理由となっている。現在は東京の大学で演劇に取り組みながら、この事業を通じて仙台とのつながりを保っている。こうした複層的な支援体制は助成によって実現しているものであり、継続的な創作環境の確保を可能にしている。
アドバイザーの横山真氏は、創作に行き詰まった際にはいつでも相談できる存在である。稽古場では高校生や実行委員に折に触れて言葉をかけながら、創作の道筋を静かに支えている。
横山氏は「地元に引力があれば人は戻ってくる」と語る。自身も東京での活動を経て仙台を拠点にしているが、その背景には、かつて尊敬する人物からかけられた「いつか一緒にやろう」という言葉があったという。その言葉は、時間を越えて人をつなぎ、いまもこの場に流れている。こうした積み重ねのなかで、アドバイザーや運営サポーターである教員など、大人たちの存在そのものが“引力”となり、人と人とを引き寄せ、やがて新たな循環を生み出している。本事業は、そうした循環の起点となる場であると同時に、支え続ける人の営みの上に成り立っている。ここで生まれたつながりは、一過性のものではなく、やがてそれぞれの場所へと持ち帰られ、次の創作へと受け継がれていく。今後は、地域での継続的な創作活動や劇団設立へとつなげていくことも期待される。

本番を目前に控えた稽古場では、セクションごとのミーティングが各所で行われていた。世代も立場も異なる関係者が対話を重ね、協働している。その光景は、単なる舞台制作の現場にとどまらず、関わる人々が相互に力を引き出し合う場となっている。
演劇の創作を通じて生まれる関係性は、人と人とをつなぎ、地域に新たな活力をもたらす。ここで育まれているのは作品だけではなく、地域を支える人材と、その関係性の蓄積そのものである。このような取組は、他地域や他分野にも展開が可能なモデルとなり得るものであり、今後の広がりが期待される。


