
会場:仙臺緑彩館
※助成事業の概要についてはこちらをご覧ください。
https://ssbj.jp/support/chiiki-outline1/
※報告会の概要についてはこちらをご覧ください。
https://mag.ssbj.jp/event/20050/

※[スタートアップ枠]は、本格的な事業の実施に向けてリサーチを行う事業や、活動歴の浅い個人・団体が利用できる枠です。
※昨年度から継続採択された活動には[継続]、新規採択された団体には[新規]と記載しています。
[スタートアップ枠][新規]
(10)人流楽器によるひらかれた演奏体験と地域回遊促進
報告者:人流楽器制作集団
【概要】
位置情報データ分析の技術を応用し、歩いた場所や過去に同じ道を通ったほかの使用者の歩きに応じて音が生成される「人流楽器」アプリの開発を通して、都市における回遊の活性化を目指す。
2025年9月の定禅寺ストリートジャズフェスティバルで試験的に導入した。会場周辺の飲食関連サービスに近づくとその種類やカテゴリに応じて音が鳴るほか、使用者が歩いた直線距離の長さに応じて新たな音が生成される。アプリ利用を通じて記録された軌跡データを分析することでイベント事業者の運営や広告獲得にも役立つ。実証実験の結果、楽器演奏とまちあるきの時間軸にズレが生じることがわかったため、他者の移動軌跡から自分の日常の外にある体験にアクセスする展開も考えている。

【審査委員より】
ヲザキ委員:テクノロジーとアートと自己体験が組み合わさる企画にワクワクした。音楽を楽しむイベントとどうマッチさせていくのか、また、新たな試みについての言及もあり、さまざまな場での実験を通して研究が深まることを期待する。

藤野委員:移動することによって出る音を意識的に操作できるようになると、歩き甲斐が出てくるのではないか。また、データ分析した集団の動きをプレイヤーも確認できたら透明性が高まる。音を介してゲーム感覚で都市を探索する試みはまだまだ解像度を高められそうだ。
アサダ委員:人流データを集めるために音楽を使っていると言える一方で、新しい音楽を生み出しているとも言える。音の質にこだわり感性に訴えかけることで動きが誘発されるはず。奏でる楽しさからユーザーが動いて初めて、これまでに無かった軌跡が生まれる。そのために必要な要素をどう揃えていくかに興味がある。
[スタートアップ枠][新規]
(11)ことばを超えてつながる、こども演劇プロジェクト
報告者:KOMOBASE sendai
【概要】
卸町に2021年にオープンした演劇創作のためのスタジオを拠点に、幼児および小学校低学年向けのアウトリーチ型演劇作品を制作してきた。本プロジェクトでは、近年の仙台市内における外国籍の住民の増加を受け、言語理解に頼らないノンバーバル作品を近隣のこども関連施設および在仙のアーティストと連携して創作する。今年度は民間のこども園とともにパントマイムやクラウンの手法を活用した作品を作った。次年度は外国籍のこどもが多い地域へ展開することも検討している。
また、榴岡児童館に小学生を取り巻く現状や課題のヒアリングを行い、コミュニケーションの距離感に迷う現代のこども向けの作品創作も企画している。

【審査委員より】
ヲザキ委員:地域のこどもの課題を舞台芸術で解決する試みに注目したい。今回は外国人がテーマだが、違う言語・文化との交わりという意味では「さぐる・おどる企画」((9)の報告者)とも共通点が多い。ノンバーバルなコミュニケーションを探究してもらいたい。
藤野委員:課題の聞き取りから作品を創作すると聞き、ぜひ見てみたいと思った。

アサダ委員:もともと持つノウハウを提供するのではなく、自分たちも悩みながら新しい創作に取り組んでいるのが印象的。ノンバーバルな表現を考えるためにはそもそも「言語とは何か」を突き詰める必要がある。言語に頼らない創作を通してアーティストの人材育成にもなったら良いと思った。
[スタートアップ枠][継続]
(12)年齢、障がい、国籍の壁をこえて、みんなが楽しめる「どなたでもコ
ンサート」の制作と実践
報告者:一般社団法人音楽のおもちゃ箱
【概要】
年齢・障害・国籍などの違いにより文化芸術へアクセスしにくい人も含め、誰もが安心して参加できるコンサートを2024年度より開催。今年度は継続できる仕組みづくりのため法人化し、音楽家向けにインクルーシブな音楽体験プログラムの開発を学ぶ研修会を実施した。コンサートではプログラムと会場動線を事前公開するなど、アクセシビリティ対応を更に充実させた。また、センサリールーム運営団体との企画段階からの連携、就労継続支援B型事業所による商品販売、福祉NPO法人の就労体験受け入れなど、運営面でも当事者や地域団体が「どなたでも」関われる場を体現した。
本助成の枠組みの外でも、アウトリーチ型の体験プログラムを2件実施している。

【審査委員より】
ヲザキ委員:人材育成にも取り組んでいるところに中長期的視点がある。インクルーシブな鑑賞の場を一緒に作り、時間をともに過ごすことで共通理解を醸成するのは非常に大切。参加者が共通理解に基づき「居心地の良さ」を感じていることに心強さを感じた。
藤野委員:来場者が多いことに驚いた。一方向的にサービスを提供するのではなく参加型になっている点も、基盤整備を見据えていて良い。イベントの充実を図るための地道な努力や、地域連携に力を入れていることも評価でき、さらに活動が開かれていったら良いと思った。
アサダ委員:法人化や受託事業にまで発展していて素晴らしい。研修を通じて若手の音楽家が演奏だけではない場づくりの視点を得ていることに未来を感じた。今後、対象者が広がったり規模が大きくなった時に、合理的配慮そのものを楽しめる環境づくりや、テクノロジーの活用といった展開も検討してはどうか。
審査委員からの総括

芦立委員:今年初めて審査委員をやらせていただいたが、仙台で活動する中で気付いた課題に誠実に真摯に向き合う姿勢が申請書の中に丁寧に書き込まれていることに驚いた。みなさんの試行錯誤が今後、政策に反映されたり、施設運営のアイディアに活かされたり、仕事につながったりといった形で徐々に波及することを楽しみにしている。一点、演劇分野の活動が特化して多い一方で美術の申請が少ないことが、美術を専門にする者として少し気になった。みなさんの活動に刺激を受けた人に活動がより広がっていくことを願う。
アサダ委員:社会課題に文化芸術でアプローチしようとする時、なぜ文化芸術なのか、そのアプローチに必然性があるのかを考えると簡単ではない。一見、課題にアプローチしていないように見える事業モデルに「そんな形式、方法論で世の中を捉えるのか」と思わせることがまさに、文化芸術ができることであり、可能性だと思う。建築ダウナーズが製作した椅子に座って話すことには、日常の中での「座って話す」行為とは異なるモノやヒトとの関わり方が生まれている。この事業を通してそういう「変なコミュニケーション」が生まれる場を細かく蓄積し、アーカイブしていくことが大切だ。学校とは違う選択肢をとっている子どもが作るゲームの映像も、ストレートに課題解決にはつながらないが、とてもリアルだ。こうしたものが指し示すところに文化芸術と社会の連携があると思う。また、単年度の活動助成と5年間の団体助成ではやれることの自由度や時間感覚が大きく変わる。制度と運営のバランスで、それぞれの活動と社会との関わり方の幅が決まってくるので、それも踏まえて助成のあり方を考えていかなくてはいけないだろう。

ヲザキ委員:さまざまな自治体の文化行政・文化政策に携わってきたが、仙台市にこのような中間支援の制度があるのは成熟度が高く、もともと土壌があったのだろうと感じる。採択された事業に共通するのは「こぼれ落ちたものをそのままにしない視点」ではないか。計画通りに制度を実施する行政は見落としがちな、日々の活動や生活の中でのささやかな気づきを見逃さず形にしていってもらいたい。広い仙台の中で、情報や関わりの密度の差による細かい分断が危惧されていることも伝わってきたが、それでも続けていくことでネットワークは広がっていく。新しい文化施設にはパブリックコメントをどんどん出すといい。みなさんの活動を通して仙台のまちの歴史や文化の成熟度が見えるのは非常に魅力的なので、継続することと発信することを意識して活動していただければと思う。
藤野委員:審査委員3年目になるが、年々、報告会の規模が大きくなっているのが素晴らしい。助成金の原資はみなさんが払う税金なので、試みが開かれて浸透していきながら、仙台市や周辺にどう広がるかが重要。発表を見ていると、水が染み込むようにじわじわ広がり、違う庭に生えた植物の根っこが絡まりあって地面を耕していくように感じる。助成金の仕組みはそこに注ぐ日光や雨のイメージで、この助成事業の総体を捉えている。
3年間審査委員をやらせていただき、3つ提案をしたい。一つ目は、活動報告会を成果となるアウトプットが揃ったタイミングで開催すること。審査する立場ではあるが、1人の聴衆としても楽しく、午前中から始めてもいいのではないかと思うくらいだ。今年の採択者や応募者だけではなく、未来の応募者や観衆にも開かれたものであった方がいいので、規模とスケジュールを検討してもいたい。二つ目は、応募総数や得票の状況など、審査プロセスの一部を公開できないか。一次審査では分厚い申請資料を読み込んで集まり、追加で情報をいただきながらいろいろ議論をするが、そのプロセスが非常に大事。できるだけ透明性を高め、次の活動や、採択されなかった人たちの活動にも参考にできるとよい。三つ目は拠点の整備。発表者同士の連携がこの報告会を通じて始まっているが、どこかに拠点があり、助成団体の資料の一覧が見られるなど常に情報が得られれば、興味を持つ人の幅が広がる。植物の根がつながるための場所や機会が増えれば、この助成事業のブランドも認知されていくと思う。
毎年、審査過程から報告会が楽しみで、自分の外側にある価値観をたくさん見せていただく機会になっている。3月までに実施される成果発表やプログラムにも足を運んでみたい。


