
会場:au Style SENDAI 2階イベントスペース
※助成事業の概要についてはこちらをご覧ください。
https://ssbj.jp/support/chiiki-outline1/
※報告会の概要についてはこちらをご覧ください。
https://mag.ssbj.jp/event/18259/
「文化芸術を地域に生かす創造支援事業」は、2021年度から2023年度まで実施された「持続可能な未来へ向けた文化芸術の環境形成助成事業」の趣旨を一部引き継いで開始されました。レポート1では、前身の助成事業から継続して活動した7団体についてお伝えします。
テーマ1:地域の過去と現在をつなぐ
(1)仙台の今昔写真をもとにまちの魅力を多世代で新発見し、地元学のタネをノーマライゼーションに育てるアーカイブ事業「ここダネ!」
報告者:風の時編集部
【概要】
地域や家庭に眠っている仙台の街の古い写真を同じ場所の現在の写真と見比べたり、新たに撮影する活動を通して、住民の地域文化への興味関心を引き出す。市民センターや小中学校と連携して開催し、多世代交流による地域文化の保存と活用を促していく。
【今年度の展開】
活動が4年目となり、これまでに蓄積した今昔の写真の展示を市民センターが自主的に企画するなど「独り立ち事業」を展開している。

(2)「仙台げいのうの学校2024」伝承文化にコネクト・リンク・支援する次世代人材の育成および支援の仕組み化
報告者:縦糸横糸合同会社
【概要】
仙台を中心に民俗芸能の担い手と市民や企業、行政をつなぐことで、安定的な運営や継承者の育成といった課題の解決方法を探る。支援人材の育成を目指し、各芸能団体の課題解決を支援する「せんげい編集室」をこれまでの活動でできたネットワークから立ち上げ、活動した。
【今年度の展開】
新たに立ち上げた「せんげい編集室」で民俗芸能団体を繰り返し訪問して丁寧なヒアリングを行い、リーフレット制作などの支援を行うことで今後の課題解決や発信を助ける活動を展開した。

【審査委員より(抜粋)】
(1)
・歴史を学ぶだけではなく体感できる要素があるのがよい。他県での取り組みで、昔の写真に写っている人物の実物大パネルを現在の景色の中に展示していた。写真の中の景色と現在見ている景色を交感する視点を持つことが重要で、今後さまざまなやり方が考えられるのではないか。
・仙台市では、災害によって地域に残るアーカイブが散逸してしまっている場合もあり、丁寧に掘り起こして現在の文脈とつなげることには意義がある。参加した人それぞれが個別に体験したことをどのように蓄積し、広げていくのか、今後考えていけるとよい。
(2)
・初めにアウトプットを決めず、ヒアリングから適切な媒体を選択していることがポイント。団体の課題ごとに最終的に制作する媒体が変わること自体が表現であり、ビジュアルメディアだけではない、いろいろなアウトプットの可能性がある。 ・社会の変化で生活文化に関わるあらゆるものが外部化され、民俗芸能の存在自体が忘れられつつある今、とても重要な活動。それぞれの団体が何を残し、継承しようとしているのかをリーフレットやカードに編集した先に、それをどう伝え、発展させていくのか。活動を継続する上で明確にしていくこともポイントだと思う。

テーマ2:土地由来の材料を生活の中に息づかせる
(3)持続可能な顔料とメディウムの開発:Foraged Colors for CMYK in Sendai/オフセット印刷機への実装実験/活版印刷機での印刷サービス開始に向けた試験/他用途の研究開発
報告者:YUIKOUBOU
【事業概要】
自然からの採集物や食物から顔料とメディウム(色を素材に定着させるために顔料と混ぜる溶剤)を作り、新たなインクとして現行の印刷機への実装を目指す。原料の採集から顔料としての安定化や量産、社会実装に向けた研究や記録、広報まで一貫して取り組んでいる。
【今年度の展開】
カラー印刷に使用するCMYK*のインクを全て自然由来の顔料で製作することに成功。印刷会社の協力を得て、クルミを原料にしたインクによるオフセット印刷機での印刷にも成功した。
*CMYK…印刷において使用されるカラーモデルの一つで、「シアン(Cyan)」「マゼンタ(Magenta)」「イエロー(Yellow)」「ブラック(Key Plate)」の4色を組み合わせて色を表現する。

(4)森林環境や建築生産に携わる人々の声をもとにした家具の制作を通して、木材の経路を辿り、つながりを結びなおすプロジェクト
報告者:建築ダウナーズ
【事業概要】
普段、家具や什器の製作に使用している木材や山とのつながりをつくり直す活動。2022年から実施してきた森林環境に携わる方々へのインタビューに加え、木材店にもインタビューを行い、そこで聴いたエピソードや印象的な言葉を材料や形に反映させた椅子をデザインし実際に製作。完成した椅子の試座会を兼ねたトークイベントも実施した。
【今年度の展開】
これまでのリサーチを実際の家具製作へ展開。トークイベントを開催したことで、参加者がゲストの活動現場を手伝いに行くなど、関係性の発展も見られた。

【審査委員より(抜粋)】
(共通)
・活動が毎年アップデートしていることが伝わる。現代は印刷物も家具も簡単に購入できるが、生活の中にあるものの背景や物語を丁寧に確認していく作業とその表現に魅力を感じる。
・材料と出来上がったものの関係を結び直す取り組みは、「場所」に人間がどう関わるかをテーマにしている。地域の中に存在していた材料が形を変えて製品に結実するプロセスにこだわることに特徴がある。
(3)
・CMYKの4色を製品化するのが一つのゴールとしてありつつも、「クルミの色だからできること」のように、一つ一つの材料の個性が感じられる使用方法を発見できるとよいのでは。
(4)
・活動の発信方法として、椅子に実際に座ってもらいながら、現場で活動する人と参加者が交流する展開が見られたのがよかった。
・見た目の印象と違って座り心地がよい。プロセスがアウトプットにどう生きているのか、そのオリジナリティを共有していくことが重要。

テーマ3:アートを介してコミュニケーションを活性化する
(5)「つくる、見る、話す、いる ともに表現する場所」を地域にひらく
報告者:特定非営利活動法人エイブル・アート・ジャパン
【事業概要】
創作や身体表現の場を通じて、障害のある人とない人が出会う環境を作る活動を7年にわたり継続。今年度はコミュニティセンターで造形活動の場を開くオープンアトリエと、福祉事業所に出張し、人形劇を通して利用者が文化芸術に触れ、表現を発露する機会を作る「広場の人形劇」を展開。
【今年度の展開】
ゲストファシリテーターを招いたり参加者のレポートを公開するなど、より多様な人に関わってもらうための取り組みへ発展しているが、リソースの不足に課題も感じている。

(6)ろう者とのパフォーミングアーツ活動活性化事業
報告者:さぐる・おどる企画
【事業概要】
聴覚障害がある人とない人が一緒に参加できるダンスワークショップを開催し、交流や相互理解を通じて多様な人がパフォーミングアーツに関わることができる環境を作る。今年度は新たに手話サークルへのアウトリーチ活動やろう映画監督によるサイレント映画の上映会およびトークイベントにも取り組んだ。
【今年度の展開】
活動が少しずつ認知され、参加者の増加や外部からの依頼もあった。アウトリーチ活動により新たに出会った当事者から、聴覚障害をめぐる環境についてより深く聴くことができた。

(7)アートの力を他分野に活かすアウトリーチ活動普及のためのネットワーク構築と実践事業
報告者:一般社団法人PLAY ART!せんだい
【事業概要】
演劇的手法を用いたワークショップによるコミュニケーション教育の普及に取り組む。今年度は小中学校での開催に加えて福祉事業所でもアウトリーチ活動を行い、場の特性に応じたプログラムを計画・実施し、さらなる展開と定着の可能性を探った。
【今年度の展開】
教育現場から継続的な開催を望む声が聞かれた。障害福祉分野への応用の可能性も感じられた。

【審査委員より(抜粋)】
(共通)
・インタビューや既存のデータを用いてニーズを調査し、事業に落とし込んでいるのがよい。福祉分野にアートを活用する取り組みはこれまでもあったが、就労移行支援事業において、能力や特性を見出す手段として身体表現を用いることは今後期待される分野なのではないか。実践者が蓄積したノウハウを共有していくことが大切。
・ふだん出会わない他者との出会い方を発明していることは、教師や福祉関係者、アーティストそれぞれにとって大切。障害の有無や障害の種類、年齢や性別などの属性で一括りにせず、一人一人の物語として捉える必要性があると感じた。異なるセクターが関わる仕組みを作ることのハードルは高いが、取り組む団体は増えており、ネットワーク化していくことが今後重要になる。
(5)
・人形を介することで、ふだんはできないコミュニケーションができることに可能性を感じた。
(6)
・身近にいるのに接点が無い、ろう者と聞こえる人が一緒に過ごす場を提供していることが効果的に感じる。
(7)
・プログラムを作り上げるプロセスを学校や福祉の現場と共有するコミュニケーションが意義深い。
