私のバイブルとする1冊が星野道夫氏の『悠久の時を旅する』です。
2014年本格的に写真に取り組み始めたころです。カメラに関する専門書を探していたのですが、「星野 道夫」という名前と吸い込まれるような写真が目に留まり購入しました。我々世代は、「どうぶつ奇想天外!」という番組をよく見て育っていた方が多いと思うのですが、星野氏はその番組に出演されており、子供ながらにその名前を強烈に覚えていました。その星野氏が番組外でどのような写真を撮っていたのか、どのような生活をしていたのかを本誌で、深堀したいと思いジャケットをみて即購入しました。
写真家 星野氏は没後28年となりますが、残した写真は今尚色あせず、たくさんの人の心を魅了します。私もその軌跡と表現方法に支えられている一人です。写真表現のみならず、その言葉も多くの方に影響を与え、今や学校の教科書にも掲載されています。アラスカの壮大な風景と野生の息遣いを映し出し、自然との共生の大切さを静かに訴える、文才豊かな方でもありました。
私も自然写真家として野山に分け入り、野生動物を撮影し続けていますが、時に危険も伴うそのような撮影を何故続けるのかと問われることがあります。動物の可愛さや美しさを伝えることはもちろんですが、自然の尊さを社会に問うための代弁者になれればと考えています。
知らない方も多いと思いますが、仙台市内にはニホンリスがひっそりと生息しています。ニホンリスは秋になると、木の実を集め、土に埋め、貯食を行います。その貯蓄した食料を餌の少ない冬や春先に食すのですが、ときに隠したところを忘れ、それが芽吹き、やがて森の一部になります。
こんな小さな生き物でも、森を形成する大きな役割を果たしているのです。
何気なく日常を生きていると、ふと自然の息遣いを忘れてしまうことがあると思います。しかし、この社会は人だけでなく、様々な命が交錯し、形作られています。
その交錯する命にフォーカスし、写真として表現することが私の役割の1つであると考えています。この著書では、星野氏が感じた自然の息遣いを細やかな文章表現と写真を通して感じることが出来ます。