※助成事業の概要についてはこちらをご覧ください。
https://ssbj.jp/support/kankyo-outline/
※報告会の概要についてはこちらをご覧ください。
https://mag.ssbj.jp/event/15626/
第1部 事業報告
関係者が一堂に会した初めての報告会、実施プロセスの共有方法や継続のための仕組みづくりが話題に
第1部では12プロジェクトを4グループに分け、1チームあたり5分間のプレゼンテーションと審査委員によるフィードバックが行われました。どの発表も短い時間の中に熱い想いが込められており、審査委員との質疑応答は予定時間をオーバーして盛り上がりました。助成事業は3年目となりますが報告会の開催は初めての試みで、審査委員からも「直接話を聞くことでそれぞれのプロジェクトがより深く理解できた」という声が多く聞かれました。また、プロジェクト型事業は「事業プロセスや様々な人びととの関わりを重視した」ものであること、「助成対象期間終了後も継続する計画がある」ことなどが条件となっていることから、審査委員からも「社会からの共感を得るために事業プロセスをどのように発信していくか」、「今後の事業継続に向けてどうやって仕組み化していくか」といった話題が特に多く上がっていました。
※それぞれのプロジェクトの内容と審査委員のコメントについてはこちらをご覧ください。
https://mag.ssbj.jp/col/16467/(レポート2)
第2部 トークセッション
対象となる事業や経費の柔軟性が歓迎されるとともに、今後の課題も。
報告会の開催がネットワーク形成に寄与
第2部のトークセッションでは進行の千田優太さん(一般社団法人アーツグラウンド東北代表理事)から採択者のみなさんにこの助成事業についての印象が問われ、「調査研究や関係者との調整作業に対しても助成してもらえることで、挑戦できることが増えた」という声が多く上がりました。千田さんからは「(アート・インクルージョン事務局の報告で)福祉作業所利用者の工賃が低すぎるという話を聞いて、(自己資金も必要な助成事業では)実施すればするほど負担が増える自身の経験に重ね合わせた」という発言もあり、事業費の10/10を助成する本事業について多くの参加者から「活動の助けになる」という声が聞かれました。一方で、今後さらに活動が広がるような仕組みづくりや助成事業の継続について熱く希望する意見もありました。
審査委員からは、「一つ一つの多様な取り組みが仙台の文化芸術環境を豊かにすると実感した」という期待の声とともに、事業や報告会の場を通じて形成されたネットワークを大切にし、助成事業そのものの継続性について議論を続けることが必要だという意見が述べられました。
【参加者のコメント(抜粋)】
事務作業も含めた申請者の人件費が対象経費になるのは素晴らしいと思います。
(仙台演劇研究舎)
コンサートを企画する際に助成金を申請することが多いのですが、事業費がマイナスになった場合に補助されるものが多く、基本的に「好きでやっているのだから自分で出すべき」と認識されているのかなと思います。オーケストラに入ってお給料をいただける人は一握りで、多くの若い人は複数の仕事をかけ持ちしながら演奏活動を続けています。この助成金は、私たちの若手を応援する活動自体に価値を認めてくださるのがとてもありがたかったです。
(一般社団法人ミュージックプロデュースMHKS)
作品の制作や展覧会開催時の実費が対象の助成制度が多く、日頃仕事をする中で課題に感じたり疑問に思うことにアプローチするのはなかなか難しいのですが、今回、リサーチも助成対象となるということで、ずっと取り組みたかったことに踏み出すことができました。日常の仕事をする中では取り組めない大切な問題に対して足を運んだり人の話を聞いたりすることも、ものづくりには必要なプロセスなので、こうした助成金には意義があると思います。
(建築ダウナーズ)
自分たちが取り組んでいるような技術開発は通常、ものづくり系の補助金やサイエンス領域の研究開発費が対象になるのですが、それより手前の段階の研究が助成対象になるのは大変活用しやすく、「これしかない」という感じでした。
(YUIKOUBOU)
地域と市民センターと学校とをつなぐためには、スタッフ間でも関係者との間でも、非常に綿密な打ち合わせが必要になります。その人件費も対象にしていただける助成金は、他ではなかなかありません。おかげで場をつくるための準備にしっかり時間を割くことができました。
(風の時編集部)
今日ここで発表された実践がせんだいメディアテークの展覧会や企画につながるなどして、より多くの人に伝わったらいいと思います。既存の施設や資源の循環こそ、活動の環境づくりの視点で設計してほしいです。来年度から「(仮称)仙台市文化芸術推進基本計画」が実施される中、どのように市の予算を使って、どんな地域文化を育むのかを考えていく必要があります。仙台という都市の規模や東北における役割を考えるとまだまだ規模も足りないです。今後、どう継続的な財源を確保していくのか、若い人材をどうやって活かしていくのかを、審査委員のお力もお借りしながら私たちも提案していきたいと思います。
(特定非営利活動法人エイブル・アート・ジャパン)
ビジネス分野の補助金は今、事業再構築補助金のように価値あるものを継続するためのもの、イノベーションを促すためのもの、ICT系のテクノロジーの導入を推進するものの3つの流れがありますが、この助成金はアメーバのようにそのすべてを横断でき、今、このまちに必要なものの受け皿になっていると思います。また、会社などの民間組織が文化芸術のプロジェクトに参加する際に最低限必要になる資金を「応援」という形で注いでくださったことが、各プロジェクトのエンジンになったと感じます。さまざまな「芽」が出てきたところだと思うので、少し長い時間軸で見てもらうとさらに面白いまちになっていくと思います。
(仙台げいのうの学校)
【審査委員のコメント(抜粋)】
藤野 今年度、初めて審査委員をさせていただきましたが、電話帳2冊分くらいある分厚い申請書類を読みながら、多分野に渡る多様な取り組みにワクワクしました。審査なので泣く泣く落とさざるをえないものもありますが、「このワクワクした気持ちを申請者のみなさんにも共有できないか」という思いがあり、今日の報告会につながりました。実際に発表を聞くことで各プロジェクトの理解が深まるのはもちろん、この場でみなさんのネットワークができるのが財産になると思います。来年度以降、このネットワークから生まれた新しい申請が出てくるかもしれないと期待感が膨らんでいます。
森 私自身、過去に小さなプロジェクトや劇団で助成金を申請したり、企業に掛け合うなどさまざまな立場を経験しました。そうした中でも対象経費のあり方や制度の枠組みがこれほど柔軟な助成事業は、なかなかないと思います。3年間続けてこられた仙台市や市民文化事業団には敬意を表したいと思います。
仙台市の特徴なのか助成金の性質上なのか、「場所性」「物語」「記憶」といったものをテーマにしている採択事業が多い印象です。均一化が進み合理化が求められる近年の社会へのオルタナティブを示しているようで、期待感があります。ただ、こうした活動はどうしても規模が小さく、伝えづらいものになりがちなので、今日の場のようなネットワークを活かして発信していくことが大切だと思います。単年度ごとの予算組みや縦割りの役割分担という行政の仕組みの中でどうやって活動を持続させていくかは、仙台市だけではなく今後の公共性を考える上でのテーマです。参加団体や審査委員、さまざまな自治体関係者も含め、みんなで考えていくべき課題だと感じました。
細馬 仙台に住んでいない自分でも、みなさんのお話をお聞きするうちに仙台の街の厚みを感じられました。今昔の写真を照らし合わせる行為について聞いた後に地域の木材についての話を聞き、土地から採る染料の話を聞くと、自分の生活を作り上げるものと土地の風景が結びつく感覚が生まれます。あるいは、演劇というのは総合芸術で、人が動いて音があって舞台美術がある、その一つ一つに携わる人たちそれぞれの営みがあることも感じられ、面白い時間でした。私は研究者なので、毎年、科学研究費や学校の予算を申請しますが、年度を単位に動く社会と関わろうと思うと、年度途中に予算が決まってそこからスタートせざるを得ないのが大変です。どうやって複数年度を見通すような予算をつけることができるかは一つの課題だと思いました。
木ノ下 こうした場があることで、みなさん自身も公的資金を使っている責任や、事業の社会的な広がりを認識されたと思います。今日この場で出た意見が次の助成金や今後の仕組みに反映されるものになるのではないでしょうか。もう少し規模の小さいスタートアップ的な活動にも関与できる仕組みがあると、さらなるボトムアップができるかもしれません。どのような「環境の形成」を目指すのか、助成金の名称で明瞭に示すことや、金額設定と継続年数のバランスなども今後の検討課題になると思います。とはいえ、一つ一つの取り組みが大きな生態系を作ることが発表に体現されており、感銘を受けました。仙台特有の課題ではなく全国にも波及するような着目点が多くあったと思います。個別の事業評価以上に、助成金事業の可能性を市民文化事業団、あるいは仙台市としてどう評価し位置付けていくのか。メディアテークのような拠点との連携をどう設計していくのか。教育委員会や学校との仕組みづくりをどうしていくのか。今後もみなさんと考える機会が持てたらと思います。